タイトルが気になって、「金井一郎 翳り絵展」を見に吉祥寺美術館へ行ってきた。
分厚いカーテンをめくって一歩中に入ると、暗い空間の中にぼんやりと発光している灯りたちが見えた。近寄ってみると、それらは烏瓜や蓮の実でつくった植物のランプだったり、米つぶほどの大きさの“街頭”で照らされた誰もいない階段や、雪あかりに包まれたミニチュアの夜の町の一角だった。
ひとつひとつ見て回っていくうちに、だんだん身体のなかが暖かくなっていく感じがした。エアコンやヒーターのように部屋中がまんべんなく暖まるものではなく、そばに行って手をかざすとじんわりと暖かくなってくる炭火のような、やわらかい灯りたちだった。また分厚いカーテンをめくって、蛍光灯の明るいロビーに出た時、「ああ、いま求めているのはこういうものだったんだなあ」と感じた。
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数日後、ふだんは照明の仕事をされている年上の友人Tさんとお茶をした。Tさんはときどき私に面白い童話をメールで送ってきてくれる。この間も、「この童話の始まりの端っこに書いてある言葉のことを、最近よく思い出すのです」と、「らんの花」という小川未明の童話のことを教えてくれた。
お茶をしながら、「なんで童話をよく読むんですか?」と聞いてみた。Tさんは難しい哲学書なんかも色々知っていたからだ。「あのね、一昔前の童話に出てくる“灯り”の表現というのはとてもいいんだよ。小川未明や宮澤賢治もランプや電信柱のことをお話にしたりしてるしね」と答えた。
ああ、そうかと思った。一昔前の童話に出てくる「光」の描写がとても生き生きしているのは、今のようにどこもかしこも明るくなかったからなんだ。今はスイッチを押せば電気がパッとついたり消えたりする。でも一昔前(と言ってもせいぜい祖父母が子どもだった頃)には、太陽が沈む速度でだんだんと夜は来ただろうし、太陽が昇る速度でだんだんと世界は明るくなった。子どもにとっても大人にとっても、暗闇を照らす灯りは今よりずっとずっと貴重に感じられただろう。
私はその話を聞きながら、暗い部屋で静かに発光していた金井一郎さんの作品たちのことを思い出していた。もう一度あの灯りを見に行きたいなと思って調べると、嬉しいことに12月にまた展示があった。
2024年12月10日(火)〜12月21日(土)
AM11:00〜PM7:00(日曜休廊、土曜PM4:00まで)
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「らんの花」(小川未明著)の朗読。
「この話をした人は、べつに文章や、歌を作つくらないが、詩人でありました。」