2024年8月26日月曜日

帰りの電車の中で考えたこと

「やっほー!シネマ〜対話篇」の収録が終わり、松本からの帰り道一人になって、暗くなった外の景色を見ながら涙が出てきた。理由もわからないまま、涙はそのまま30分くらい流れ続けた。なぜ、私は美帆さんに会いに長野まで行ったのだろう?と思った。

大人になってから出会ったとても仲の良い夫婦が二組いた。一組は、女性の友人が写真を撮っていて、男性の友人が絵を描いていた。もう一組は、二人ともミュージシャンだった。それぞれの家に遊びに行っては、私たちは夜遅くまであれこれいろんな話をした。 

その二組のカップルは同じタイミングで子供を産み、ほとんど同じタイミングで東京を離れて移住した。一組は長野へ、もう一組は福岡へ。私によく懐いていた黒猫も、一緒に福岡へ行ってしまった。絵描きの友人は引っ越す前に、私に言った。「東京の良さも捨てたくないよ。でも今は生活のことで頭がいっぱいだ」。 彼が最後に描いていたのは、一足の靴のつま先が二股に分かれている絵のシリーズだった。まるでどっちの方向に歩いて行ったものか、立ち往生しているように見えた。 


今回のゲストの美帆さんが選んでくれた映画『17歳のカルテ』には、主人公が精神病院の院長先生とやりとりするシーンが出てくる。未成年の彼女がタバコを片手に「最近、アンビバレントという言葉が好きなの」と言う。「どういう意味か知っているの?」と問われ、彼女は正確には答えられない。「相反する二つの思想に引き裂かれそうになることよ」。 

私の中にもいつからかずっとこれに近い感覚があったと思う。何と何の間で引き裂かれそうになっているのか?と問われれば、正確に答えられる自信はないのだけど、仲良しの夫婦たちが東京を離れていく度に、その痛みは大きくなった。彼らが私の側からいなくなってしまって、やはりとても寂しかったのだ。松本からの帰り道、何かが自分の中から永遠に失われてしまったような気持ちになった

でも、と言ってみる。無い物ねだりをしても仕方がないのだ。どんなに離れて見えても、二つの極の間には無数の点がグラデーションのようにあって、毎日その配置や色合いは変わっていくのだ、と。 

もう何年も前に、私が人生の大きな局面に頭を抱えていた時、魅力的な先輩の女性がニッコリ微笑んでこんなふうに言ってくれたことがある。私は今だにこの言葉が忘れられない。 

「白黒はっきりつけているうちは子供よね、真歩さん。」



2024年8月23日金曜日

「手を振りたい風景」をめぐって

🍉お知らせです🍉

「やっほー!シネマ 〜対話篇」の第3回目(後篇)が公開されました。 

ゲストの美帆さんが二本目に選んでくれた映画『スパニッシュ・アパートメント』の英訳タイトルは「POTLUCK(ポットラック)」というらしい。「ありあわせの料理を持ち寄る」という意味。ホストが全てを用意するのではなく、ゲストも好きな料理を持ち寄って、みんなで食べる肩肘張らないパーティー。 

今回の「対話篇」はまさにそんな回になった気がします。私に“司会”の能力が欠けているせいもあって、会話があちこちに飛びながらも、わちゃわちゃと楽しく、時に深いところに触れながら進んでいきました。参加してくれた川口ミリさんは所々で重要なキー・ワードを出してくれて、「私は今日は黒子で…」とおっしゃっていたPINTSCOPEの小原編集長も、途中参加して話に深みを与える質問を投げかけてくれました。 

みなさま、ありがとうございました。とても大切な回になりました。 

どこかにいるあなたにも届きますように。 

↓   ↓   ↓ 

【後篇】「手を振りたい風景」をめぐって 

00:00 改めて、レイソン美帆さんのご紹介 

09:40 心に残る一本の映画 その②『スパニッシュ・アパートメント』 

18:50 毎日がホリデーなんだ 

27:42 「やっほー!」は魔法の挨拶 

38:48 みんなの中の自分なんだ 

53:40 朗読



2024年8月22日木曜日

「人間らしさ」をめぐって

🌻お知らせです🌻

「やっほー!シネマ 〜対話篇」の第3回目(前篇)が公開されました。

今回は、長野県松本市まで行って収録してきました。この日は、朝から少し体調が悪かったのですが、自然あふれる開放的な空間と、同行してくれたライターの川口ミリさん、PINTSCOPE編集長の小原明子さんにトークでも助けられ、最後まで楽しんで収録を終えることができました。(「前篇」と「後篇」は同じ日に録音したのですが、明らかに自分の声のトーンが違うの不思議です……。)

松本は至る所に湧き水が湧いていて、前篇の収録場所で貸していただいた銭湯「菊の湯」のすぐ脇の湧き水は、味が透明で身体に染み渡りました。また、お昼にみんなで寄らせてもらった「アルプスごはん」のご飯も目が覚めるほど美味しかったです。



今回、ゲストで出てくれたレイソン美帆さんには、たくさんの生きるヒントと元気をもらいました。ありがとうございました。

川口ミリさんが最後に読んでくれたトルーマン・カポーティの遺作『叶えられた祈り』からの一節も心に響きましたが、「人間らしさってなんだっけ?」と考える回になった気がしています。

「永遠や完璧さをのんだり、大人になることをのぞむのは、結局は、オブジェか祭壇かステンドグラスの窓のなかの聖人になることでしかないことを思い出しなさい。どれもみんな大事にはされるかもしれないけど、そんなものになるよりも、くしゃみをしたり人間らしさを感じたりするほうがずっといいのよ。」 

どこかにいるあなたにも届きますように。 

↓   ↓   ↓

【前篇】「人間らしさ」をめぐって 

00:00 レイソン美帆さんへの手紙 

06:55 つんつんしていた頃の自分を変えたもの 

16:00 心に残る一本の映画 その①『17歳のカルテ』 

24:30 弱さを隠さなくてもいいと思える場所 

34:20 いろんな人の裸が教えてくれたこと 

52:26 朗読 

毎回、とても細やかな編集作業をしてくださる音声ディレクターの原田惇さん、本当にありがとうございました。 

「後篇」は明日公開予定です!


2024年8月3日土曜日

お知らせなど

最近、朝起きても暑くてジョギングができない。日課になりかけていたのになあ。無理せず、涼しくなってから外に出ようか。

夜のウォーキング中に私の朗読(第一回目の「寒い季節のはじまりを信じてみよう」)を聞いてくれた方が、こんな感想をくれた。

夜、ウォーキングをしながら聞きました。 いつものウォーキングコースがちょうど暗渠の上にあります。凍った川のことを思い出したり、車がたくさん走る道路が大きな川に見えたりそこを馬で渡る想像をしたり蒸し暑い夜に夏の心で冬を想像するのはとてもおもしろかったです。苦しみとの付き合い方みたいな内容もすんなり受け止めれたような気がします。

歩きながら聞く朗読は自分一人で読みすすめなきゃいけない読書とは全く違う経験なんですね。ゆっくりとぼとぼ歩くスピードに山田さんの声が付かず離れず付き合ってくれたような感じがしました。

自分の好きなタイミングで聴けるのでスマホで聴ける形式とお声がとてもあっていたように思います。みなさんがどんなシチュエーションで聴いているのか気になってきました。

「いつかどこかにいる誰かに届いたら」と思ってやっているわけだけど、やはり今を生きている誰かの感想はとても嬉しいし、励みになります。ありがとうございます。

第4夜目は、『じっとしている唄』(小栗康平著/白水社/2015年12月5日発行)より、「ミツマタ」「ガマガエル」「雨の音」という三つの短いエッセイを読みました。

小栗康平さんの文章を声に出していると、なぜか「どこにも行かなくていい」と言われている気がする。こんなにみんなが「どこか」へ行こうとして、「何か」になろうとしている世界の中で、時間が止まっているような不思議な感じになりました。 どうしたら、こんなふうに世界をゆったりと見ることができるのだろう。


8月と9月に小栗監督の映画の上映とトークがあるそうです。なかなかない機会と思われますので、ご興味のある方はぜひ。 

第35回東京学生映画祭 「泥の河」上映&小栗康平監督によるトーク 
2024年8月17日(土) 11:30~ 
 
2024年9月3日(火)~8日(日) 
川喜多かしこと “映画の仲間” エキプ・ド・シネマの半世紀 


お知らせです。
今年の秋、リーディング劇「女中たち」に出演します。
2022年の冬、舞台「沈丁花」でご一緒させていただいた演出の堀越涼さん、俳優の大沢健さん、作曲の吉田能さんとまたご一緒できるのがとても嬉しく、感慨深いです。
あの時は、マスクをつけながら稽古をし、本番ギリギリまでお互いの顔を見られませんでした。今回、魅力的な共演者の皆さまと共に、どんな朗読劇「女中たち」を作り上げていけるのか、今からワクワクしています。

CCCreation Presents 無題シリーズvol.1 リーディング劇「女中たち」 Jean GENET

原作:ジャン・ジュネ 
演出:堀越涼 (あやめ十八番 ) 
音楽監督・演奏:吉田能 (あやめ十八番 ) 
公演期間:2024年9月20日(金)〜23日(月・祝) 
会場:銕仙会 能楽研修所 

日程などの詳細はこちらです。