2024年4月29日月曜日

ある夜の出来事

七日間の怒涛の富山撮影から無事に帰ってきた(デビュー作の短編自主映画の時以来の大変さと可笑しさがないまぜになった、毎日が嵐のような現場だった)。

家が静かで電気が消えていたので、アルコールランプに火をつけてこれを書いている。停電ではなくて、支払いが滞っていたのだろうか? 銀行引き落としにしているはずだけど。原因はよくわからない。ランプを買っておいてよかった。 

なんだか不思議な「縁」を感じたので、忘れないうちに書いておこうと思う。

夜九時頃、新幹線を乗り継いで最寄りの駅に帰ってきた。スーツケースを引きながら蕎麦屋を目指している途中で、古道具屋をやっているK君に「真歩さん」と声をかけられる。「お店、十年目になりました」と彼は言った。「おめでとう」と、お土産に買った「白えびチップス」を彼にあげた。 

蕎麦屋は予定より早く閉まっていて、仕方がないのでそのまま銭湯に入って、駅前でタクシーを待った。一台目のタクシーに乗ると、個人タクシーで、テレビもついていなくてクラシックがかかっていた。 

この駅は北口が面白いですね。白いカエデの花ばかり植えている。お客さんは生まれは東京ですか?(東京ですが、富山帰りです。)薬屋ですか?(え?)富山の薬売りって、有名ですよ。私が子供の頃にはカゴを背負って売りに来てました。私は地元が九州の山奥、まあジャングルのような場所です。そこに二十代までいました。八人兄弟の末っ子で、生まれた三ヶ月後に原爆が落ちて、しょっちゅう聞かされていたからもう自分が見たように思います。

私は自分で言うのもなんだけど、天才のようで記憶力が良かった。東大に受かったけど、行かなかった。勉強した覚えもない。あんな知識なんて意味がないです。勉強ができたって、全然すごいと思えない。(ではどんなことをすごいと思いますか?)ある時、子供たちが大きな木の木陰に休んでいたんです。でも誰もその木のことを知らないんですよ。名前を。クスノキなんですけどね。そういうことを知らなきゃダメだと思いますよ。

私はノーベル賞をもらっているんです。(え?)ノーベルの奥さんの方からね。いい人だったなあ。八つの童話を書きました。(へえ、読んでみたいです。)まあ、ご縁があればね。ああ、この場所はMの家の近くだな。(え? 私はMちゃんの親友ですよ!?)と、私は今日一番驚いて大声を出したけれど、そのタクシーの運転手は、ああ、と答えただけで、たいして驚いていなかった。(こんな偶然はそうそうないですよ?)そうでしょうねえ。 

あまりに不思議な巡り合わせだったので、撮影のクランクアップでもらった小さな白いバラの花束をそのタクシーの運転手さんにあげた。「今度浮気しましょう」と言ったように聞こえた。降りる時、「あれ、そういえばお支払いしてもらいましたか?」と言われて爆笑した。すっかり忘れていた。私が降りたあと、ドアも閉めずによろよろとタクシーが動き出して、電柱にゴンとぶつかっていてさらに笑った。

運転席からふらりと夜道に降りてきて、その八十歳のタクシーの運転手は言った。ワタシ、この仕事もう辞めようと思ってるんですよ。(何をするんですか? また九州の山奥に帰るんですか?)そうですねえ、山の中で大麻を育てようと思ってるんです。そこで死ねれば本望です。

忘れられない七日間の撮影の最後の締めくくりに、なんとも変なタクシーの運転手さんに会って、時空が異空間に入ったような感じがした。 

電気が消えていると家の中がしんとしていてとても静かだ。


2024年4月9日火曜日

「言葉にならないこと」をめぐって


映画のコラムサイトPINTSCOPEのポッドキャスト、「山田真歩のやっほー!シネマ 〜対話篇」(第4回目)が公開されました。 

どこかにいるあなたへ届きますように。 

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【後編】「言葉にならないこと」をめぐって 

00:00~ 改めて、林建太さんのご紹介 

02:44~ 見えること、見えないこと、わからないこと 

11:37~ 心に残る一本の映画 その②『空に聞く』 

17:29~ 何を切り取るのか、何を見ていくのか 

52:02~  「詩の言葉」と「散歩すること」 

58:41~ 朗読 

(音楽:てんこまつり/音声編集協力:和田美砂子/PINTSCOPE編集部:小原明子、鈴木健太/音声ディレクター・音声技術:原田惇) 

なお、【後編】で林建太さんがご紹介してくださった小森はるか監督の『空に聞く』が、4/20(土)~4/26(金) の期間に下高井戸シネマで日替わりで上映されるそうです。 

そしてなんと、佐藤真監督の『おてんとうさまがほしい』という作品も同時にラインナップされています。これまた嬉しい偶然です。 

特集〈日々をつなぐ〉 @下高井戸シネマ  4/20(土)~4/26(金) 日替り上映 

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2024年4月2日火曜日

 「ありのままの風景」をめぐって

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映画のコラムサイトPINTSCOPEのポッドキャスト、「山田真歩のやっほー!シネマ 〜対話篇」が公開されました。 

今回はゲストに林建太さん(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ代表)をお招きして、いろんなお話をお聞きしました。林さんが「こういうことをあまり人に語ったことがないので・・・」と何度も立ち止まって、言葉を探しながら、とつとつと話してくださった姿が印象に残りました。 

今回の対話篇には「人にあまり話したことのないこと」や「言葉にするのが初めての話」が詰まっていて、まるで、これまで踏み入れなかった裏山の雑木林を分け入っていく気持ちになりました。 

終わった後、林さんからこんなメッセージをいただきました。

「私の内心のもどかしさが消えるわけではないのですが 

このもどかしさ込みの語りをどこかに放流しても良いのだと思えました。 

いつか誰かに届くと良いなと思います。」

とても嬉しい言葉でした。

今回、対話篇にも参加していただいたPINTSCOPE編集長の小原明子さん、とても細やかな編集作業をしてくださった音声ディレクターの原田惇さん、本当にありがとうございました。

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「山田真歩のやっほー!シネマ 〜対話篇」(第3回目)

【前編】 「ありのままの風景」をめぐって 

00:00〜 林建太さんへの手紙 

02:25〜 世界の見方がほぐされた 

12:36〜 佐藤真監督の元で何を学んだのか 

22:34〜 人や風景を「ありのまま」に見るということ 

34:26〜 心に残る一本の映画 その①『SELF AND OTHERS』 

55:41〜 朗読 

(音楽:てんこまつり/音声編集協力:和田美砂子/PINTSCOPE編集部:小原明子、鈴木健太/音声ディレクター・音声技術:原田惇)

【後編】は、4/9(火)に公開予定です。