2023年6月30日金曜日

詩集を選んだ日


ふと
誰かに詩集を贈りたくなって、新宿の紀伊国屋書店の二階で本棚の前に立つ。
詩の本棚だ。
ほとんど知らない人の名前とタイトル。
いろいろページをひらいてみる。しっくりこない。
『港の人』という本を手にとる。
タイトルがいいと思った。触れてみていいと思った。
紺色の布地の表紙に銀色の文字も洒落ている。
内容はまだよくわからないけど、並んでいる文字がなんだか心地よさそうだ。
こんど恋人にあったら
たましい、こわしちゃってね、っていってやろうか
というところが目に飛び込んできて気に入った。買うことにする。


書店を出て路地裏のカフェに来た。
ソファが広々していていい雰囲気だ。店員さんにスマホのQRコードからメニューを読み込んで注文してくださいと言われ、「携帯を忘れました」と嘘をつく。
今日初めてのウソ。

選べない。タッチパネルの寿司屋のメニュー。
選べない。パソコン画面の中の映画タイトル。
訴えかけてこない。情報になってしまったものたち。
手触りがない。全部が記号だから。

神様、お願いします。世の中を全部タッチパネルにしないでください。
選ぶ楽しみがなくなっちゃうから。



2023年6月24日土曜日

100分de名著

NHK「100分de名著」に朗読で出演します。今回は『放浪記』『浮雲』などを残した作家・林芙美子です。 

彼女の作品を読んでいると、「まるで空に浮かぶ雲のように、人の心も世の中もどんどん移り変わっていくんだなあ」ということを痛感します。でも、そんな確実なものが何一つない世界でも諦観するのでなく、いつも逞しく生きていくことを選択していく彼女の姿に勇気づけられます。 

そして番組の指南役は、ドラマ『ナイルパーチの女子会』の原作者でもある柚木麻子さん! これまでの林芙美子のパブリック・イメージを覆すような、新たな視点からの解説が痛快で素晴らしいです。ぜひご覧ください。 

 ☁ ☁  ☁ 

余談ですが、私は「100分de名著」は眠れない夜によく見ています。ただ、内容が面白くてなかなか眠くならないのが難点です。この間はこんな一行詩ができました。 

「100分de名著 500分見ても眠れない夜」 

古今東西の名著を一度に摂取しすぎると、体の中がカオスになるので要注意です…。


☁️

2023年6月10日土曜日

たぶん梅雨入り

この間、鎌倉のとあるバーで偶然会った年下の女性から、h hunt(ハリー・ハント)という音楽家を教えてもらった。ピアノへの触れ方が心地いい。最近、朝起きると聴いている。



最近、読んだ本。

『はじめて あった』(大橋仁・写真)
写真集『はじめて あった』をめくっている。何年も前、この人がノンフィクションでやったことを、フィクションの世界でやるんだと意気込んだことがあった。でも結局、現実も虚構もそんなに大差はないのかもしれないと思ってきた。この人の写真をずっと苦手だと思っていたけれど、ただ気になっていただけだったのかもしれない。彼の新しい写真集を、内容も見ずに買った。めくっていると、胸に迫って来るものがある。

『哀切と痛切』(小栗康平・著)
エッセイ本は目次を見て、気になるところから読む癖がある。映画監督・小栗康平さんのお母さんのエピソード、「定かでなく」をはじめに読み始めた。好きだと思った。こんな文章を書ける大人に、いつかなりたい。

『kazuo ohno's world from without & within』(kazuo ohno & yoshito ohno著)
大野一雄さんの『稽古の言葉』はもう何度も読んでいる。英語バージョンの方が内容が厚く、大野さんの詩的で独特な語り言葉が、丁寧に翻訳されていて「そういうことだったのか」と辞書を片手に読みながら新しい発見があって面白い。一度、生でこの方の舞踏を見て見たかった。