2023年12月26日火曜日

対話編(第一回)

「やっほー!シネマ〜対話篇〜」の第一回目が公開されました。映画のコラムサイトPINTSCOPEの「山田真歩のやっほー!シネマ」から聞けます。

以下は音の目次(喋っている内容のおおまかな分数)です。

00:00  今年一年を振り返ってみる 

08:55  年末年始に観たい映画 その①『ダンシング・ベートーヴェン』 

13:33  喜びの方に向かっていくこと 

19:28  時間をかけることの大切さ 

24:54  自分の《孤独》も踊りにする 

30:53  年末年始に観たい映画 その②『タンゴ・レッスン』 

41:30  運命は意志の力で作られる 

51:44  女が憧れる女性像 

53:22  朗読



(写真:大森めぐみさん)

2023年12月15日金曜日

もうじき年末

今年は一年の最後に「新しいこと」を始めます。

これまで5年間、映画のコラムサイトPINTSCOPEで「やっほー!シネマ」というコラムを書いてきました。もともと感想文は苦手だし、何か良いものを見ても「良かったよ」とか「面白かったです」など、シンプルな言葉で済ませていました。それがコラムとなると、「面白かった」の一言では済まなくなり、どこがどう良かったのか、なぜそれを良いと感じる自分がいるのか……なんて普段考えないことまで深く考えていくことになりました。

自分の内側を見つめるということ。言葉にならないモヤモヤしたものを言葉にして誰かに伝えようとすること。そういう体験ができたことは、得難く幸運なことだったと思います。

ただここ最近、「一人じゃなくて誰かと語り合いたい」という想いがふつふつと芽生えてきました。今度は誰かとの「対話」を通して、映画のこと、そこから感じたこと、物事の見方や考え方などを一緒に考えていけないものか、という想いが強くなって来ました。

というわけで、先日、都内のとある公園の芝生の上にレジャーシートを広げて、「やっほー!シネマ 〜対話篇」の第一回目を収録をしてきました。途中、木の上のカラスが鳴いたり、お弁当を食べ終わったおば様たちの笑い声が通り過ぎたり、とても面白いロケーションでした。

ただ、時間をかけて熟考できる「書き言葉」と違って、その場で言葉を見つけながら話すのってこんなに難しいんだ! と思いました。当然ラジオDJのように次から次へと流暢なトークは出来るはずもなく、とつとつと、つっかえながら、迷ったり、立ち止まったりしながらなんとか話してきました。

収録後、反省点は数え切れないほどありましたが、今後うまく行く“種”として、次回に活かしていけたらと思っています・・・。

第一回目のテーマは、「年末年始に観たい映画」です。最初は、私のコラムの編集担当をずっとしてくれていた編集者・ライターの川口ミリさんと二人でお届けします。

12/26(火)と1/2(火)に、PINTSCOPEのサイトやポッドキャストで配信予定です。大掃除をしながら、おせち料理の準備をしながら、聞いてみてください。

良い年末になりますように。


2023年12月5日火曜日

すっかり師走

仲のいい友達夫婦が、来年引っ越すことになった。彼らの家に住みついた黒猫のマルとはとても仲良しになって、夫婦が留守の時はいつも一緒に過ごしていた。
最近、彼らの新しい家族になったおチビさんと散歩もするようになった。彼女とも仲良しになった。
みんないなくなってしまうのは淋しいけれど、遊びにいく場所が増えたのだと思えば楽しくもある。


🍂

何ヶ月か前に、偶然あるお店で居合わせた年下の女性から「よかったら見に来てください」と展覧会お知らせをもらった。
彼女はふだん写真を撮ったり、絵を描いたりしているらしかった。展覧会のホームページに載せていた「曖昧で、知らない場所からはじまる、なまっぽい、加工されていないもの。」という言葉が気になって、昨夜、見に行ってきた。
入場料の300円を小さな箱に払って見た。好きなタッチの絵だった。本の表紙になっていたら、思わず手に取りたくなるような。
写真も、彼女の印象と変わらなくて面白かった。

森ひなた 浅沼弥沙 展示 

12/4(月)〜12/10(日) 
月 18:00〜22:00 
火〜金 14:00〜20:00 
土・日 11:00〜17:00 
入場料 300円 





2023年9月6日水曜日

もうすぐ(追記あり)

舞台『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』の幕が開きます。
演出家のノゾエ征爾さんが2010年に生み出したお芝居です。
どんな作品かを言葉にするのがとても難しいので、タイトルで言葉しりとりをしてみました(内容とはあまり関係ありません)。

ガ 瓦礫の中につっ立って
ラ 羅針盤の針は飛んでった
パ パーティーはもうお開きだ
コ こじれたまんまの人間関係
ス 済んだことは済んだこと
パ パンツも帽子も見つからない
コ ここは何処 わたしは誰 
ス すべての終わりで始まりの場所

毎日、何もない空間から始まって、いろんな人と感情が入り混じり、カオスになって崩壊して、光らしきものが差し込んでくる。
毎日毎日、そんなことを繰り返したら、終わる頃にはどんな所に出ているのだろう? 
今日は稽古場での最後の稽古。行って来ます。劇場でお待ちしています。

日程    2023/09/10(日)~ 2023/09/24(日)
会場    世田谷パブリックシアター


公演が始まって初めての休みの日。
ぼんやりして過ごしていたら、夜になった。
なんだかこの人のピアノが落ち着くので聴いている。
演劇はやればやるほど深化していくし、
わからないことも増えていく。



怒涛の東京公演が終わって、そのあと京都、岡山、新潟と旅公演が続き、昨日千秋楽を迎えた。
それぞれの土地に行ったらいつも朝、散歩した。少し足を伸ばして、初めて東大寺の大仏を見たり、初めて原爆ドームを見たりもできた。原爆資料館はたくさんの人がいたけれど、みんな小声で話していた。涙が出た。

演出のノゾエさんの「迷うということをしたい」という言葉は、最後まで心の支えになった。考え続けることを放棄しないこと、お互いに影響を受け合い変化し続けること……。まだ上手く言葉にまとまらないけれど、大切なことがぎゅっと詰まっていた3ヶ月間だった。たくさんの素晴らしい出会いに恵まれた。感謝です。
(10月23日月曜日)


2023年8月31日木曜日

JUST DO IT.


大河ドラマ「どうする家康」に登場する「旭姫」という役をいただいた。豊臣秀吉の妹の役だった。
この時代の女性は男性に比べて史実としての文章があまり残ってないようなので、彼女の胸中は想像するしかなかった。コメントにも書かせてもらったけれど、戦国時代を生きた一人の女性が、武力ではなく何で戦おうとしたのか、旭姫を演じながら一緒に感じられたらと思った。

台本をもらって読んだときに、なぜかふとルイ・アームストロングの笑顔が脳裏に浮かんだ。子どもの頃から、彼が満面の笑顔で歌っている姿を見るたびに、なんて悲しそうなんだろうと思っていた。
今見ても、全力で笑っているのに号泣しているようにしか見えない。黒人差別の酷かった時代、いろんな戦い方をした人たちがいたのだと思った。

撮影初日は、とても緊張していた。大河ドラマに途中から参加するということや、ちゃんと演じきれるだろうかという不安で頭がいっぱいだった。
朝、撮影へ向かう電車の中で、私の目の前に座っていた女性の帽子に印字してあった文字に目が止まった。そこには小さな白い文字で、「JUST DO IT.」と書いてあった。
神様はいる、と思った瞬間だった。




▼旭姫のインタビューを受けました。ありがとうございます。

2023年8月11日金曜日

昨夜のこと

昨夜は、ピントスコープ5周年記念イベントでした。初めてのオフライン・イベントということもあり、手探りでしたが、いろんな方の想いがぎゅっと詰まった、とても暖かい会になったのではと感じています。

いつも安定感のある編集長の小原さんが涙ぐむ開会の言葉からはじまり、編集担当の川口ミリさんとのトークも、会場の皆さんの「心の一本の映画」を語るコーナーも、それぞれに人の体温を感じるもので楽しかったです。

来てくださった方々、イベント開催のために準備してくださったスタッフの方々、場所を貸してくださったキチムさん、ありがとうございました。

また個人的には、「継続は力なり」という言葉の意味を実感した夜でした。自分に「力」がついたというよりは、いろんなことを続けていく中で、本当に素敵な人たちと出会えてきて(いま会えていない方も含めて)、そのことが自分を支えてくれる大きな「力」になってきているんだと気づきました。

そのことを一番伝えたかったのになあ……、終わったあとに気づきました。

当日の舞台裏や会場の様子を、写真家の大森めぐみさんが撮ってくれました。感謝。

2023年8月8日火曜日

初のホラー体験記 💀

PINTSCOPEの映画コラム『やっほー!シネマ』の24回目が公開された。

今回は、ホラードラマ「憑きそい」の撮影期間中に感じたこと、考えたことを書いてみた。ホラーの撮影期間は、日常生活ではなるべく誰とも会わないようにしていた。帰るといつも塩を肩にふって、日本酒入りのお風呂に入って寝た。気づくと、般若心経をつぶやいたり、にわかに覚えた邪気を払うポーズをやってみたり……。とにかく、とても異質なへんてこりんな毎日だった気がする。無事に終わった時は、深く潜っていた潜水状態からやっと陸に上がってきた感じがした。

今回の『やっほー!シネマ』も朗読付き。目でも耳でも楽しめます。ちなみに、四コマ漫画に登場するのは、いつも私の朗読に素敵な音楽をつけてくれている「てんこまつり」さんです。

どこかにいるあなたへ届きますように〜。👻 

 ↓  ↓  ↓ 

「初のホラー体験記」 

FODオリジナルドラマ『憑きそい』は、地上波での放送も決まりました。
8月16日(水)25時25分より。毎週水曜、深夜放送。
怖いので、誰かと一緒に観ることをオススメします…。

HP PR 


+ 

小栗康平監督の特集上映をやるという。

私が『やっほー!シネマ』の23回目コラムでも書かせてもらった映画『死の棘』も上映される。大きなスクリーンでフィルムで観れるチャンスがほとんどないので、これは貴重なのでは……。 

~映画の豊かさを追いかけて~ 小栗康平監督特集

8月9日 (水曜日)から、10月まで北千住のシネマ ブルースタジオにて。 


2023年7月21日金曜日

お知らせ(その②)

★PINTSCOPE 5周年イベント★ 

「心に一本の映画があれば 〜How does it feel? 〜」 

映画のコラムサイト「PINTSCOPE」初のオフラインイベントが開催されます。その第一回目のゲストとして呼ばれました。
編集長の小原さんに、「PINTSCOPEというサイトは、映画を中心にいろんな立場の方が出入りできる『広場』のようなイメージがありますね」と話すと、彼女はこんなふうに語ってくれました。「PINTSCOPEは『公園』をイメージしています。イベントはまさにそこで“MEET”する(会う、交わる、触れる、集まる)空間であり時間であるのかなと。」 

どんな集いになるのか今からドキドキしています。この5年間を振り返りつつ、映画と共に様々なことについて語り合い、何かを共有できる時間になれば、と願っています。 
また、『やっほー!シネマ SELECTED』ZINEもこのイベントで販売する予定です。お待ちしています!

日時: 2023年8月10日(木)
開場: 19:00 開演:19:30
会場: キチム(東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-7 吉祥ビル地下) 
料金:【前売】2,500円【当日】2,800円(※チケットと別に1ドリンク制になります) 
※ご予約はこちらから→(リンク:https://pintscope.stores.jp

PINTSCOPE 5周年に寄せて

★『やっほー!シネマ SELECTED』ZINE出来ました★

ある日、「映画のコラムを連載してくれませんか」と手紙をもらった時は嬉しかったけど怖かった。「四コマ漫画も描いてほしい」と言われた時には軽くめまいがした。文章や絵のプロでもない私が、何をどんなふうに書けばいいのか見当もつかなかった。

ここに収められている文章と絵は、2018年から映画のコラムサイト「PINTSCOPE」に連載されたものの抜粋です。もし、この5年の間に少しでも自分が感じていることを言葉にできるようになったのだとしたら、それは編集者・川口ミリさんの存在と、日常の中でふと出会った忘れがたい映画たちのおかげです。

いつも、言葉にすると失われるものと、言葉にしないと忘れてしまうものの間で揺れながら書きました。どこかにいるあなたに届きますように。 

(前書きより)



ここで買えます。

◯ PINTSCOPE オンラインショップ

72ページ。価格は1300円(税込)です。

「本の長屋」

古本酒場「コクテイル書房」の店主・狩野さんが発案した「本の長屋」。築100年の4軒長屋の一角を改装したそうです。ここの本棚を一つ借りて、3ヶ月限定で置かせていただきます。(8月から10月末までの予定)

◯ 喫茶「ミンカ」

何年か前に、オーナーの美香さんに誘われて、この喫茶店で一緒に朗読劇をやったことがあります。昼も素敵だけれど、夜は静かな北鎌倉の雰囲気とあいまって独特で好きでした。 

営業時間(月~木・土日)11:30~17:30 定休日:金曜日

◯ BAR「山山」

喫茶「ミンカ」の美香さんが今やっている小さなBAR。鎌倉の小町通りの喧騒からふっと外れて、まるで小動物の住処にお邪魔したような不思議な空間です。

営業時間(17:00~21:00 L.O) 定休日:日曜祝日

「本の長屋」の私の棚。


2023年7月14日金曜日

お知らせ🐦

只今、「やっほー!シネマ」のZINEを製作中です。 

映画コラムサイト「PINTSCOPE」での連載が始まってから、早いものでもう5年が経ちました。この辺りで、これまで寄稿して来たコラムのうちから数本を選んで、一冊のZINEにまとめることにしました。


自分で言うのもなんですが、ものすごく可愛らしい一冊になりそうです。 
本文の文字組も表紙のデザインもセンスが良くて、手作りの温かみが詰まっています。これはひとえに、担当編集者の川口ミリさんと、デザイナーの藤井瑶さんの愛情と仕事のクオリティの高さのおかげです。感謝です。 

インターネットのよさも勿論あるけれど、こうして手に重みを感じて、ページをめくることのできる“物”としての「本」の魅力はまた別格です。「本」というにはささやかすぎる一冊ではありますが、やはりとても嬉しい。 巻末に収められている「対談」は書き下ろしなので、そちらも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。 
(72頁。350部。増刷予定なし。) 

★発売日: 7/21(金)


また、「PINTSCOPE」の開設5周年ということも記念して、8月には初のオフラインのイベントも企画しています。詳細が決まりましたらお知らせします。どうぞお楽しみに。

★イベント開催日: 8/10(木) 
 チケット発売日: 7/21(金)



2023年6月30日金曜日

詩集を選んだ日


ふと
誰かに詩集を贈りたくなって、新宿の紀伊国屋書店の二階で本棚の前に立つ。
詩の本棚だ。
ほとんど知らない人の名前とタイトル。
いろいろページをひらいてみる。しっくりこない。
『港の人』という本を手にとる。
タイトルがいいと思った。触れてみていいと思った。
紺色の布地の表紙に銀色の文字も洒落ている。
内容はまだよくわからないけど、並んでいる文字がなんだか心地よさそうだ。
こんど恋人にあったら
たましい、こわしちゃってね、っていってやろうか
というところが目に飛び込んできて気に入った。買うことにする。


書店を出て路地裏のカフェに来た。
ソファが広々していていい雰囲気だ。店員さんにスマホのQRコードからメニューを読み込んで注文してくださいと言われ、「携帯を忘れました」と嘘をつく。
今日初めてのウソ。

選べない。タッチパネルの寿司屋のメニュー。
選べない。パソコン画面の中の映画タイトル。
訴えかけてこない。情報になってしまったものたち。
手触りがない。全部が記号だから。

神様、お願いします。世の中を全部タッチパネルにしないでください。
選ぶ楽しみがなくなっちゃうから。



2023年6月24日土曜日

100分de名著

NHK「100分de名著」に朗読で出演します。今回は『放浪記』『浮雲』などを残した作家・林芙美子です。 

彼女の作品を読んでいると、「まるで空に浮かぶ雲のように、人の心も世の中もどんどん移り変わっていくんだなあ」ということを痛感します。でも、そんな確実なものが何一つない世界でも諦観するのでなく、いつも逞しく生きていくことを選択していく彼女の姿に勇気づけられます。 

そして番組の指南役は、ドラマ『ナイルパーチの女子会』の原作者でもある柚木麻子さん! これまでの林芙美子のパブリック・イメージを覆すような、新たな視点からの解説が痛快で素晴らしいです。ぜひご覧ください。 

 ☁ ☁  ☁ 

余談ですが、私は「100分de名著」は眠れない夜によく見ています。ただ、内容が面白くてなかなか眠くならないのが難点です。この間はこんな一行詩ができました。 

「100分de名著 500分見ても眠れない夜」 

古今東西の名著を一度に摂取しすぎると、体の中がカオスになるので要注意です…。


☁️

2023年6月10日土曜日

たぶん梅雨入り

この間、鎌倉のとあるバーで偶然会った年下の女性から、h hunt(ハリー・ハント)という音楽家を教えてもらった。ピアノへの触れ方が心地いい。最近、朝起きると聴いている。



最近、読んだ本。

『はじめて あった』(大橋仁・写真)
写真集『はじめて あった』をめくっている。何年も前、この人がノンフィクションでやったことを、フィクションの世界でやるんだと意気込んだことがあった。でも結局、現実も虚構もそんなに大差はないのかもしれないと思ってきた。この人の写真をずっと苦手だと思っていたけれど、ただ気になっていただけだったのかもしれない。彼の新しい写真集を、内容も見ずに買った。めくっていると、胸に迫って来るものがある。

『哀切と痛切』(小栗康平・著)
エッセイ本は目次を見て、気になるところから読む癖がある。映画監督・小栗康平さんのお母さんのエピソード、「定かでなく」をはじめに読み始めた。好きだと思った。こんな文章を書ける大人に、いつかなりたい。

『kazuo ohno's world from without & within』(kazuo ohno & yoshito ohno著)
大野一雄さんの『稽古の言葉』はもう何度も読んでいる。英語バージョンの方が内容が厚く、大野さんの詩的で独特な語り言葉が、丁寧に翻訳されていて「そういうことだったのか」と辞書を片手に読みながら新しい発見があって面白い。一度、生でこの方の舞踏を見て見たかった。



2023年4月18日火曜日

amor fati

最近、本をめくっていたら、「アモール・ファティ(amor fati)」という言葉に出会った。そこには、こんなふうに書いてあった。

「ニーチェにアモール・ファテイ(運命愛)という重要な観念があります。自分の運命を愛したまえ、それが自分の人生なんだ、ということですね。ニーチェが言うには、もし君が、君の人生のうちのたったひとつの要素でも否定するなら、全部をバラバラにしてしまうことになる。(中略)君は悪魔を飲み込むことによって、その力を自分のものにする。人生の苦しみの大きさに応じて、人生そのものも大きくなる。」 

なんだか勇気をもらった。 

+ 

映画のコラム「山田真歩のやっほー!シネマ」第23回目が公開された。 

今回は、自分の人生のある時期に体験したことを見つめ、抱きしめるつもりで書いた。また、真剣に誰かとつながろうとすることを怖がっているうちに、軌道を離れすぎてしまった星のことを思いながら書いた。 

今回も朗読つき。私の声に音楽を添えてくれたのは、てんこまつりさん。彼女は、「もっと混沌とした音になりそうだったけど、ひと回りして祈りの場の音になりました」とメッセージをくれた。

いつも描いている四コマ漫画はなぜか浮かばず、三枚の挿絵を添えることにした。 一枚目の海の絵は、友人でもある画家の片山高志くんの絵からインスピレーションをもらった。私が初めて買った絵で、今も部屋の窓際に飾ってる。

 

自分にとっては、本もそうだけど、映画も出会うタイミングがとても大切だと感じる。「今じゃないかも」と思ったら誰かにオススメされても無理に観ない。でも、気になっているものは心の片隅に残っていて、「今かも」と波長が合うときが不思議とくる。忘れがたい作品とは、そんなふうにして出会ってきた気がする。 

いま、じゃなくてもいい。 

いつか、どこかにいるあなたへ届きますように。

      ↓   

「足下を流れる見えない水」 


(※ podcast版では私の編集担当の川口ミリさんからの”声のあとがき”も聞けます。)

2023年4月12日水曜日

喜多村みか写真展に寄せて


私だけしかこれを知らない。 

私だけが今この瞬間を感じている。そう感じることがある。

多くの人が見向きもせずに通り過ぎて行ったもの。数字や言葉が捉えそこねるもの。不特定多数の人に向けられた笑顔ではない、ごく親しい誰かに向けられた一瞬の微笑み。大勢の人に伝えるキャッチコピーではない、日記に書きつけたような誰に見せる宛もない個人的な文章。 

そんな、人に伝えるのが難しくて言葉にならないものたち。一人で部屋にいるときに、ふと差し込んでくる午後の光のような。そんな瞬間や存在をいつも愛おしいと思う。

みかちゃんの写真を見る。そこには彼女が日々の中で大切にしたものや忘れ難い瞬間が閉じこめられている。それは彼女だけの記憶の断片かもしれない。でも、その前に立つと、いつの間にか私もその世界に含まれている。柔らかく、音もなく。

写真は窓なんだ、と思った。そしてその窓は閉じられていなくて、いつでも入って行くことができる。彼女の写真は、私を再び静かな気持ちにしてくれる。この世界で虚しくなる必要なんてないのだ、と思える。 


+ 

この文章は、「午後の光のようなもの」 という題名で、私の友人・喜多村みかさんの写真集『TOPOS』(2019年)に寄せて書いたもの。

彼女がこの春、個展を開く。私は写真のことはよくわからないけど、彼女の撮る写真はどれも素敵だと思う。

いろんな人に見てもらいたい。興味のある方はぜひ。

詳細です↓

2023年4月21日[金]- 5月14日[日]

[火曜-土曜]12:00-19:30[日曜]12:00-17:00 月曜定休/入場無料  

Kanzan Gallery 



2023年3月11日土曜日

3月11日

今日は西脇順三郎さんの詩集をかばんの中に、寄り道しながら三田を散歩した。

夜、水道橋で懐かしい人にあった。小さな手のひらサイズのお墓をもらった。



帰りの電車で『旅人かへらず』をめくる。

あの日から、ずいぶん遠くに来たような、つい昨日のことのような。不思議な気持ちになった。

2023年3月10日金曜日

BUSY BODY

長屋の発想

最近、「長屋」というキーワードを、親しい人たちから聞く機会が増えた気がする。
長屋の距離感。同じ屋根の下に住んでいるのだけど、ちゃんと壁があって、でも声が聞こえてくるから完全に一人ではない。家族ほど密着していなく、一人暮らしよりも他者が近い感じ。
都会で一人で暮らしていて、隣に誰が住んでいるかわからないという状況に、ずっと心細さと疑問を感じてきたけど、ちょうどいい距離感や人とのつながりをみんな探っているのかなと思った。

地元のラジオ放送を通じて、グローバリゼーションの反対のローカリゼーションを広げていきたいという鎌倉に住むHさんも、「長屋」という発想を軸にしているという。「余計なお節介」をしていくことの大切さについて語ってくれた。「余計なお節介」のことを英語で「BUSY BODY」というらしい。
ビジーバディー、いい言葉だなと思った。

嬉しい偶然

私が好きな八百屋さんが、私の好きなお店の軒下を借りて、毎週月曜にお店を出すことになった。
草木堂というお店。私はここの野菜と果物のファンで、いつもまとめて買って野菜スープにして仕事場に持っていったりしている。
スーパーでは、野菜たちがシーンと沈黙していることが多いけれど、ここの野菜たちはみんな人格(?)があってわいわい語りかけてくるから、いつもあれもこれもと買いすぎてしまう。

その草木堂が月曜日に出店するお店は、コクテイル書房。映画のコラム「やっほー!シネマ」の第一回で書かせてもらったお店だ。

店主の狩野さんが、いま本の長屋(本を中心にいろんな人たちが自由に集える場所)プロジェクトを立ち上げているという。
古本を持ち寄ってみんなで本屋をつくるという。面白そうなので、私も箱店主に応募した。どんな本を置かせてもらおうか。いまからワクワクしている。

「本の長屋」プロジェクト


2023年1月26日木曜日

父母と『思春期』の話


お正月に実家に戻った時、父母といろんな話をした。
小学校の教師を退職して何年も経つ両親は、今は二人でささやかなサークル活動のようなものをやっている。たとえば、フルートの先生に歌を習うことや、人形を作って子どもたちに人形劇を上演すること。それから、「本の会」に参加していろんな児童書を探すこと。
この間は、父と母が「本の会」をきっかけに出会った本の話になった。面白かったので、二人に内緒でスマホで録音した。
装丁に使われたイラストが気になって、父が手に取った『思春期』(小手鞠るい著)という本の話。その絵が気に入り、自分で描き写したという。山田家の壁には写真や絵が細々とたくさん貼ってあるけれど、父の模写した『思春期』の表紙の絵も仲間入りしていた。

こういう話を、今のうちにいろいろ聞いておきたいなと思った。

↑『思春期』の表紙で使われていた長田結花さんのイラストを、父が模写したもの。

2023年1月5日木曜日

新年

毎年、お正月に日本舞踊のお稽古場の近くの神社で、奉納舞踊を踊らせていただいている。今年は、商売繁昌の門付の踊り「萬歳」と民謡「伊予節」を踊った。

あるお師匠さんから「いい踊りを踊るね」と声をかけてもらい、嬉しかった。いつだったか、私の踊りのA先生が、「庭の落ち葉をはくように、自然に踊るのがいい踊りなのよ」と言われたことを思い出す。いつかそんなふうに舞台にいたい。

今年も長島の漁師さんから立派な鰤が届く。ありがたい。映画『夕陽のあと』の撮影で出会って以来のご縁。長島の青い海を思い出しながら、お刺身や鰤シャブにして、美味しくいただく。

昨晩は、仕事仲間のOさん、Mさんと、ささやかな新年会をした。帰り際に、それぞれ今年の抱負を三つのキーワードにして出しあった。ほろ酔いの自分から出てきた言葉は、「新しいこと」「無我」「古典」だった。

今年は、初心に戻って、自分をゼロにして、予想もしなかった世界を楽しみたい。