新宿を歩いていると、広告やキャッチコピーの“言葉”がたくさん溢れている。大抵はすぐに消えていってしまうのだけど、その中で、ときどき滞空時間の長い“言葉”に出会うことがあった。そこを通り過ぎたあとも、しばらく心の中に残像のように残っている不思議な言葉。
尾形真理子さんという方の言葉だと後から知った。
だから今年の春に、尾形真理子さんの小説『隣人の愛を知れ』のAudibleの朗読のオファーが来た時はとても嬉しかった。と同時に、小説を読んで「これは責任重大だ…」と緊張と興奮でふるえた。年齢も境遇もバラバラの、六人の女性の独り語りという形式をとって物語が織りなされていく。落語家なら朝飯前かもしれないけれど、身体の中がカオスになった。とにかく、来る日も来る日も小説を声に出して読むという日々を送っていた。
それぞれの女性のイメージを保てるように、自分なりに音楽のプレイリストを作ったり、小説に出てくる場所を一つ一つ実際に歩いてみたりした。これらの作業は息抜きにもなったし、楽しかった。
録音の最終日、三ヵ月間、朝から晩まで一緒に過ごした六人の登場人物と別れるのはさみしかった。彼女たち全員が愛おしい、と思った。
『隣人の愛を知れ』登場人物のテーマソング(注:私個人のイメージです)
ひかり CEO of Watching Television (Ellie Dixon)
莉里 Two Moons (Erika Dohi)
知歌 海がきこえる (永田茂)
青子 Isn't It a Pity (Nina Simone) / Run From Me (Timber Timbre)
ヨウ Walk On The Wild Side (Suzanne Vega)
美智子 Christmas Lullaby (Arvo Pärt)
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この間、写真家の大森めぐみさんが写真を撮ってくれた。彼女がカメラを持ったとき、二子玉川の河原の空間が濃度を増した気がした。
初めて会ったのに、ずっと親しい誰かを見つめているような気がして、不思議な時間だった。