私だけしかこれを知らない。
私だけが今この瞬間を感じている。そう感じることがある。
多くの人が見向きもせずに通り過ぎて行ったもの。数字や言葉が捉えそこねるもの。不特定多数の人に向けられた笑顔ではない、ごく親しい誰かに向けられた一瞬の微笑み。大勢の人に伝えるキャッチコピーではない、日記に書きつけたような誰に見せる宛もない個人的な文章。
そんな、人に伝えるのが難しくて言葉にならないものたち。一人で部屋にいるときに、ふと差し込んでくる午後の光のような。そんな瞬間や存在をいつも愛おしいと思う。
みかちゃんの写真を見る。そこには彼女が日々の中で大切にしたものや忘れ難い瞬間が閉じこめられている。それは彼女だけの記憶の断片かもしれない。でも、その前に立つと、いつの間にか私もその世界に含まれている。柔らかく、音もなく。
写真は窓なんだ、と思った。そしてその窓は閉じられていなくて、いつでも入って行くことができる。彼女の写真は、私を再び静かな気持ちにしてくれる。この世界で虚しくなる必要なんてないのだ、と思える。
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この文章は、「午後の光のようなもの」 という題名で、私の友人・喜多村みかさんの写真集『TOPOS』(2019年)に寄せて書いたもの。
彼女がこの春、個展を開く。私は写真のことはよくわからないけど、彼女の撮る写真はどれも素敵だと思う。
いろんな人に見てもらいたい。興味のある方はぜひ。
詳細です↓
2023年4月21日[金]- 5月14日[日]
[火曜-土曜]12:00-19:30[日曜]12:00-17:00 月曜定休/入場無料